取引業者

猛吹雪の平日の昼下がりに、私は税務署へ赴いた。
税金を払わされるのに、金と時間をかけて税務署へ行くのだ。
まるでわけがわからない。
「てめーが来い!」と思ったが、
来られて税務調査されたらそれはそれで困る。

税務署は札幌の貧民窟に立地している。
周囲にはゴミみたいな外観のアパートや団地が林立していた。
パッと見の印象だが、震度2くらいで横に倒れるのではないか。
そういう余計な心配をしたくなる。
一言でいうと嫌な街だった。
それもこれも税務署があるからだろう。
実はこの一帯は札幌の賃貸不毛地帯で、空き家率も高い。
その理由の一端がわかった気がした。

道中、さんざん雪に降られて雪まみれになりながら、
ようやっと税務署に辿りつく。
中に入るとコーナーが大きく二つに分かれていた。
書類が完成している人とそうでない人だ。
完成している人は右に曲がって受付に書類を出して終わり。
そうでない人はエレベーターで三階に行けと。

右にある受付を見たら客は誰もいない。
なのに職員は4、5人はいた。お前らバカか。
書類が完全にできていたら税務署なんか来るわけねえだろ。
封筒に入れて郵送するわ。あるいは電子申請するわ。
わからないから書類持ってここまで来てるんだよ。
受付の人数なんか1人でいいわ。というか、箱でも置いとけ!

そうは言っても文句を言ったら税金を2倍にされたりしそうだ。
なので黙って3階へ行く。
そしたら、魚市場かと思うくらいフロアに活気があった。
とにかく人が多い。一発でインフルエンザになりそう。
そして客が職員に文句を言いまくってる。
これが税務署か……。

税務署職員を怒鳴りつけても税金は安くならない。
なのに怒りを税務署職員にぶつけざるを得ないのかもしれない。
いつまでたっても上昇しない景気と、上昇し続ける社会保険料。
とりあえず身近な公務員を攻撃しておくかという機運が高まっている。
弱い者が弱い者を叩く構図が出来上がっているのだろう。
本当は霞が関を爆破したいのだろうが、そんなことできないから、
税務署で末端の職員を罵倒するのだ。悲しい現実がここにある。

さて、確定申告である。
受付から提出の流れはこうだ。
受付に行き、確定申告の種類によって色の違う札が渡され、
待ち合いコーナーで順番を待ち、税理士に内容を相談する。
そしてその後に確定申告書類を自分で作る。
まさに流れ作業である。
税理士は書類のチェックなどもしてくれる。

申告書類はパソコンでつくるのだが、そのコーナーも激込みである。
パーティションが胸までの高さしかないので、
仕切りからみんなの頭が飛び出ている。
その頭の数たるやすごいものである。頭のお祭り状態だった。

そんなぎゅうぎゅう詰めのフロアではひっきりなしにいさかいがある。
客が職員に怒鳴り、職員がバイトに怒鳴る。食物連鎖か。
これで灰皿が飛んでいれば先物取引業者となんら変わりない。
しかもやり返す職員がたまにいたりして、まあ大変な状況だった。

当たり前だが、金の事になるとみんな必死なのだ。
金とは本来、価値ある何かと交換できるものに過ぎないのだが、
いまや金は価値そのものとなっている。
その価値ある金を取られたり取り返したりするのが確定申告なのだから、
真剣にならない理由がないのだ。

そんな彼らを尻目に、私はスマートに申告を済ませ、さらりと納税してきた。
あらかじめ書類を作成して印刷しており、相談のために来ただけなのである。
出来る男は違う。
税務署にとってみたら理想的な客だろう。

外へ出ると吹雪は止んでおり、晴れた冬の空が広がっていた。
日差しが雪の照り返しで眩しい。

確定申告の要領はわかったから、もうここへ来ることもないだろう。
そう思えばこの鬱屈とした街並みもなんだか名残惜しく思えてくる。

この地に降り立った時よりも少し大人になった私がいた。


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# by akiyakaitaiking | 2016-03-09 14:17